「法教育」1000文字説明文

「法教育」とは何ですかという質問を良く受けます。いろいろな説明の方法はあるのですが、ここでは実際の教育現場で児童と接していらっしゃる教員に向けて1000文字で説明を試みてみました。

【金沢大学大学院法務研究科教授・福井弁護士会弁護士 野 坂 佳 生】

「法教育」が目指すもの

 私たちは、社会集団の中で否応なく、「自分とは考えが合わない人との人間関係」や「利害が対立する人間関係」を経験することになります。
 「法」とは、このような人間関係を調整するための基本技術ですが、社会には膨大な数のルールがあり、その中のいくつかを「つまみ食い」的に学ぶことは、教育の本質とは程遠いものです。また、それだけ多くの「ルール」が社会に存在するにもかかわらず、私たちが実生活の中で出会うひとつひとつのトラブルの解決方法が「なにかの法律に書いてある」というわけでもありません。そこに書いてあるのは「一応の判断基準」にすぎず、テレビの法律番組で法律専門家どうしの意見が食い違うことがあるのも、そのためです。
 しかし、近代社会の全てのルールは、いくつかの「原理原則」のうえに成り立っています。利益や負担の配分・ルール違反行為への罰則・罰則を課す手続という3局面における正義(裁判制度は第3局面の正義原理を制度化したもの)、「自由と責任」、「人権(人間の尊厳)」などです。したがって、これらの原理原則を理解し・かつ現実問題に応用する技能を身につけることにより、断片的知識に頼る必要のない「人間関係の調整力と問題解決力」が身につくことを期待できます。これが「法教育」の目指すものです。

「司法教育」と「法教育の違い」

法教育授業風景 法教育は、実社会の法や司法制度の仕組みを知識として教える(これは「司法教育」と呼んで「法教育」とは区別します)前に、それらの基礎にある「集団内で生きる個人に最低限必要な共通了解事項」、いわば複雑化した現代社会における「読み書きそろばん」とも言える資質を育成しようとするものです。
 そのため、児童生徒自身に「原理原則から身近な問題を解決させる」ワークショップ型の教育手法をとりますが、教員の方々には、このことについてどれだけ言葉を尽くすよりも、実際の授業を見たり体験模擬授業を受けていただいたりするほうが、はるかに容易に理解していただけることと存じます。

 法教育が提供する「ものの考え方」と「基本技術」は、児童生徒のみならず、社会に生きる全ての人に必要なものです。家庭や学校においても、その場の状況に流された「場あたり的」なものではない、筋の通った育児や家庭教育、学級運営や生徒指導を行う一助になることと確信します。

(右上の写真はジュニアロースクール福井2004のワークショップの一コマです)

 

 福井弁護士会では、数年前から地元の中学校・高校に会員を派遣し、法教育模擬授業を行ってきました。2004年8月には福井市内の中学校に働き掛け、夏休みの自由研究や職場訪問と同様の扱いをしていただけることになり、「ジュニアロースクール福井」を2日間に渡り実施し、参加者44名(小学生、高校生各1名含む)全員に修了証を手渡すことが出来ました。また、教員29名の参加で「ミニ・フォーラム 〜法教育の可能性を考える〜」を開催し、法教育の現状や現場での問題点、教育者と法律家との連携などを話し合いました。
 2005年には、「福井法教育研究会」が発足し、ミーティングを重ね、8月にも同様のイベントを企画いたしましたのでみなさまの参加をお待ち申し上げております。 

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