法教育ワークショップ2004

 

「法教育」とはなにかをQ&A形式にまとめてみました

Q. 「法教育」とはなんでしょうか?

A. 細やかな法律知識やノウハウ(例えば悪徳商法被害にあわないための注意点)以前に、身の回りの紛争や社会の基本的な問題について「自分で考え、公正に判断出来る能力(=法的資質)」を養おうとする教育です。
 米国におけるLRE(Law Related Education 法関連教育と訳されることもある)をひとつの範としています。

Q. 「法教育」とは司法制度改革審議会が答申した「司法教育」のことですか?

A. いいえ。司法教育とは「現在の法や法制度」に関する教育です。司法制度改革審議会が「司法教育」の必要性を答申したのは、裁判員制度導入との関連で、国民が「現在の法や法制度」を理解しておかなければならないという意味でした。「法教育」はこれと異なり、現在の法や法制度が立脚している根本理念(哲学)に関する教育をいいます。そして、この理念(哲学)に基づいて行動しようという態度(=法的態度)の育成を目標とします。

現在の法学習(法制度学習)の問題点(福井大学 橋本康弘助教授)
→現行法体系や国会、裁判所といった統治機構を学習対象とし、理解を学習原理とした活動
→理解(暗記)を中心としているために現行法制度を無批評に享受する可能性を秘める
→法を既存の存在として前提化するために、子どもの法意識として、「法を守るべきもの」「法を破るモノ;『抜け穴探し』を行う」を持つ危険性がある。

Q. 「資質」や「態度」を育成しようというのは、道徳教育のようなものですか?

A. 上記の意味で、確かに「法教育」は一種の人格教育であり、道徳教育に通ずる一面を持ちます。
 しかし道徳教育が「個人の内心の善悪判断」を扱うのに対し、「法教育」は「個人の社会的な行動原理」を扱います。他者と利害が対立した場合の行動原理としての「正義と公正」の理解、実社会でこれを実現する技能の習得、そして実際にこれを実現しようとする意欲の育成が「法教育」の目的です。

Q. なぜいま「法教育」の必要性が叫ばれはじめたのでしょうか?

A. 根本には、価値観の多様化や国際化といった日本社会の変化があります。伝統的な社会規範が薄れ、これに代わる行動規範(例えば宗教)が十分に機能していない日本社会の現状では、欧米で宗教基盤の崩壊とともに法教育が模索されはじめたのと同様、「わかりあえない者どうしが共存する原理」としての「法の精神」以外に社会的な行動原理を見いだすことが困難だからです。

「法教育」の効用(福井大学 橋本康弘助教授)
→身近な法的問題(社会における法的論争問題)を子どもたちに「合理的」「合意的」に解決させること(解決過程を子どもたちにたどらせること)で、問題の解決に必要なスキルを獲得させると同時に、スキルに基づいて合理的合意的に問題を解決する能力(意志決定能力・合意形成能力;方法知)を形成することにつながる。
→法を前提化し、受け入れるものという法意識ではなく、「法(ルール)はつくるもの」「法(ルール)は状況が変われば作り替える」という法意識の涵養(かんよう)につながる。

Q. 「法教育」の取り組みに関する現状はどうなっていますか?

A. 法務省が「法教育研究会」を設置し、2005年(平成17年)春には、まず中学校教育レベルから「法教育」を導入することを目指して、教材作成等の具体的な準備作業を進めています。

現在でも可能なもの;中学校公民的分野「個人と社会生活」(福井大学 橋本康弘助教授<右写真>)
(内容の取り扱い)身近な社会集団として家族、学校、地域社会などを取り上げるとともに、個人が結びついて社会が生まれ、社会生活が営まれていることを理解させ、社会生活を円滑にするために互いの合意に基づいてルールがつくられていることなど、日常の具体的な事例を取り上げて考えさせること。(中学校社会科学習指導要領解説、平成11年、文部省p.130)
 アメリカでは小学校初等クラスから、クマさんが取ってきた蜂蜜をどのように分配するかなどを絵本を教材に使って実施しており、12カ年を掛けてのカリキュラムが組まれている。

 

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