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第一章 渡米準備

その2 初めての海外旅行

 外国へ渡るためには、パスポートがいる。近頃は海外旅行もポピュラーで、みんなパスポートぐらいは持っている。持っていない人は所轄の旅券事務所へ足を運ぶことによって手に入れることができる。
 その際はガイドブックに書いてあるように旅券申請書、戸籍抄本、住民票、財産証明(預金通帳)、身分証明書(免許証)、証明写真、官製はがき、印鑑が必要である。いずれも容易に手に入るものばかりだ。
 証明写真にしても自分で作ることができる。愛用のカメラに普通のカラーネガフィルムを装填(てん)しセルフタイマーで撮るだけだ。バックは会社の白い壁を利用した。5、6枚撮ってみて、気に入ったものを焼き増しハサミでカットすればOK。この写真はパスポートのみならず、入国査証(ビザ)、国際免許、ユース・ホステル会員証にも流用できる。渡航後もパスポート紛失時の予備、他国へのビザ申請、会員証に必要となるので10枚は必要だ。一度に焼き増しておけば安価で後々重宝するだろう。

青空とヘルメット

刺激的なラスベガスのネオンサイン。
海外旅行どころか飛行機にも乗ったことがなかった。
(ネバダ州 9月)

 旅券事務所に必要書類を提出すると数日後にはがきが届く。そのハガキに指定された期間中に再び事務所に行けばパスポートが手に入る。パスポート5ページの写真の右隣の所持人自署の欄にはその場で本名を記入した。
 赤表紙のパスポートが手に入ると自然と気分が盛り上がってくる。


 パスポートは日本人であることを証明するだけなので、国によっては入国査証(ビザ)が必要だ。
 私が渡米したころ(1987年)の赤坂・アメリカ大使館は、長蛇の列だった。受付時間にも制限があり何度か無駄足を踏まされた。
 正直者の私は滞在期間を1年と書いたおかげでトラブルになり、別の窓口に台湾人・フィリピン人と並び面接調査を受けた。どうにかビザの発給を受けたがB12(観光)のみ1年限りという中途半端なものだった。
 カナダ、メキシコ領事館にも足を運んだ。主な領事館の受け付けには日本人スタッフがいるので安心して訪ねることができる。カナダにはワーキング・ホリデー・プログラムという便利な制度があるので、有資格者(年齢制限有り。健康診断書も必要)はとりあえず手続きをとることを勧める。
 この制度は日加両国親善友好のため、25歳以下の健康な若者に一定期間の労働許可を与えるものだ。やや時間がかかるので数ヶ月前から手続きを進めてほしい。オーストラリア、ニュージーランドにも同様の制度がある。
 大使館・領事館というと身構えてしまうが、米・ソ以外の所は、警備員なしで入りやすい。私はモーターサイクルで敷地内まで乗り着けた。
 まず、電話で確認し積極的に行動する必要がある。友人、知人に聞いても何の役にも立ちはしない。自分だけが頼りだ。
 ゆっくり時差を消化しながら渡米しようと考えたが今時船は見つからなかった。いろいろ探した結果、大韓航空成田〜ロサンゼルス往復1年間オープンチケットを135,000円で購入した。
 アメリカに親類や知人がいる人は呼び寄せ航空券を送ってもらうのも一つの方法で、日本国内で買うより3割方安い。
 大韓航空はトラブルが多く怖いと言う人がいるようだが、モーターサイクル以上に怖い乗り物などこの世にあるだろうか。


 パスポート、ビザ、航空チケットが手に入れば渡米可能だ。ボストンバッグ片手に単身乗り込むのも一興だが、もう少し準備をした方が良いだろう。

青空とヘルメット

新車のHonda Shodew1100が旅の相棒となる。ロサンゼスル郊外の日系人経営の店で購入。
後部座席に振り分けバック、ジュラルミン製カメラバック、タンクバック(カメラ用)三脚、テント、着替えなどを積み込んでチェーンでロックをかける。
(ニューメキシコ州 4月)

 現地でのモーターサイクル調達が大きな問題だった。日本から愛車を持ち込む方法もあるが、現地で購入し売却するのが現実的だ。

 アメリカで大きいと言われるのは1000cc以上のもので400ccや600ccは小さいと言われる。250cc以下はほとんどない。体格が大きいからというよりも国全体のスケールの違いだろう。
 値段の安いのも大きな魅力だ。88年型HondaGL1500は日本では175万円だがアメリカでは9,999ドルしかしない。中古車の安いものもゴロゴロしている。私のシャドー1100を友人に売ったのはたった2,000ドル(25万円)だった。
 数万kmに及ぶ全米ツアーの足はホンダ車と決めていた。マシン自体の信頼性の高さと北米におけるサービス網が決め手となった。
 具体的な車種を決めるため、本田技研本社北米課でカタログ・価格表のコピーを入手した。足つき性・積載能力・燃費(エンジン形式)・タンク容量・整備性・価格等を総合的に判断し、シャドー1100に決定した。水冷Vツイン4ストローク1099ccのエンジンはよく回ったし、低いシート高は転倒の危機をすくってくれた。
 私の場合、初めての海外旅行に加え語学力の不安もあったため、雑誌に紹介されていた日系人の店に国際電話で予約した。しかし、電話代に加え少ない割引だったので損をしてしまった。近頃は日本人が働いている店も多いし、筆談とジェスチャーでもOK。
 アメリカに住所が無いと買えないとか、国際免許では保険に入れないとか噂があったがすべてデマだった。何かトラベルが生じたら、その場で考えれば良いではないか。旅にトラブルはつきものだ。トラブルが心配なら家から半歩も出るな。


 国際運転免許証も運転試験場へ行けば、1時間以内で交付される。この時も自前の証明写真が役に立つ。自動二輪の免許を持っている人は小型限定・中型限定でも大型に乗れる。アメリカでは二輪の免許は1種類しかない。日本での常識はすべて忘れた方が良い。
 軽微な違反で捕まったとき、国際免許を見せると許してもらえることがある。良いことではないが、右も左も分からない異邦人を装い、警官の英語が分かっても知らないフリをするのがコツだ。ポリスマン・スイマセン。

青空とヘルメット

偶然、美人コンテストの一行と遭遇した。メキシコにも行きたいと思っていたが情報は極端に不足していた。
(メキシコ本土 3月)

 北米の道路状況を調べるため、東京タワー向かいの社団法人日本自動車連盟にも足を運んだ。JAFと言った方が通りが良いだろう。とりあえず入会し、海外部で説明を受けた。
 話の内容としては、JAFの会員証を提示すればAAA(アメリカ自動車連盟)・CAA(カナダ自動車連盟)のメンバーと同様のサービスが受けられる。各地にあるAAA・CAAのオフィスでロードマップ・ツアーブック、キャンプブックが無料でもらえる。道路は良く整備されている。メキシコ以南のラテン諸国はとにかく危ないのでモーターサイクルひとり旅は避けた方が良いといったところだ。モーターサイクルの保険、ヘルメットの着用義務については確かな情報が得られなかった。
 オフィス一覧表を頼りに数十回利用したがAAAのサービスは抜群だった。サービスの悪いアメリカでは特筆すべきものだ。ロードマップにしても国単位、大地域単位のものから市単位、市街単位までキメ細かく用意されている。しかも、すべて無料。国際免許を発行するのもAAAだが、この場合は有料(ただし、たったの5ドル)。
 また、レストルーム(便所)がとても清潔で広々としていることも付け加えておこう。ライダーに対しても親切なのでどんどん利用すべきだ。
 ツアー中に道路地図が数kgもたまってしまうので数度、船便で送った。とても良いお土産となっている。


 宿泊施設としてはキャンプ場をメインと考えていた。理由は単純に安いと考えたからだ。実際は民営のキャンプ場では10ドルを越えるのも多く、キャンプ用品を揃えるのに数100ドルかかったので、金銭的メリットはあまりなかった。

 ただし、田舎ではキャンプするしかなかったし、白人のライフスタイルに触れることができ有意義だった。
 日本でキャンプをした経験がないので比較はできないがアメリカのキャンプ場は最高のレベルだったと思う。キャンプ用品も割安なので現地でそろえるのが得策。夏でも寒い所が多いので厚めの寝袋が絶対必要だ。
 日本で何度も利用したYH(ユース・ホステル)の会員証も更新しておいた。英語ではユースと言わずにホステルと言う。若者だけでなく年配者の利用も多いからだ。
 アメリカではそれほど多くはないものの、利用価値は十分にあった。特に、片田舎のYHは個性的なマネージャーが多く、深くアメリカを理解することができた。ホテル代の高い都市部、観光地では最も安い宿泊施設として役に立った。1泊3.5〜10ドルで屋根付きに泊まれるのはありがたい。
 また、モーターサイクルひとり旅の場合、良きにつけ悪しきにつけ日本人と会い日本語会話を楽しめるのはYHだけだ。世界中の旅行者との交流も楽しい。
 日本国内で手に入るインター・ナショナルガイドブックに加えアメリカ国内版ガイドブックを購入することを強く進める。こちらの方が情報量が多く利用価値が高い。
 モーテルは全米各地に整備されており、ゆっくり一人になりたい時や雨に打たれた時は利用しても良いだろう。最低でも20ドル以上かかるのでモーテルに泊まった日は、予算オーバーしてしまうのが欠点だ。


青空とヘルメット

基本的に1年中同じ服装。ロック研究会の仲間が見送りに来てくれた。
(JR横浜駅 6月)

 衣類はまずライディング・ウェアを中心に揃えた。というよりもいつも使っているものを着ていっただけだ。基本的に起きている時間はこのスタイルでいた。
 6月とはいえ秋・冬用のスタイルに近かった。暑ければ脱げば良いが、寒いと走れない。冬用のグローブを日本に置いていったのは大失敗だった。防寒用としてもしっかりとしたレイン・ウェアは必要だ。ヘルメットも持参した。
 寝巻用のジャージ以外は数枚の下着で十分。足りなければ格安のNIES製品(東南アジア製品)を買えば良い。実際、スニーカー・コットンパンツ・下着を購入したが安かった。
 コイン・ランドリーは北米に限らず、メキシコの地方都市にもあるので何の心配もいらない。洗剤もその都度買っていけば荷物にならない。
 ネクタイ・スーツでないとは入れないレストランがあるらしいが、一度もそんな高級レストランに入ったことはなかった。
 海外旅行に行く際、みそ・しょうゆ・梅干を持っていった時代があったようだが、私は何も持って行かなかった。腹が減ったらそこにあるものを食べれば良いのだ。飢え死にするくらいなら何だって食べられる。
 私は好き嫌いが激しくパンが苦手だが、どうにか無事に帰ることができたのだから心配ない。もっとも、バンクーバーやロサンゼルスでは、日本食がなんでも手に入るので助かったのは事実。
 シャドー1100に積み込んだ総重量は40kgくらいあったと思う。マグネット式タンクバッグ・振り分けバッグ・カメラバッグ・大型スポーツバッグ・三脚ケース・テントに分散しなんとか積み込めた。盗難に備えて数本のチェーン・ロックを掛けた。パスポートなどの貴重品はウエストバッグに入れた。約半分はカメラ機材だ。写真にあまり興味のない人は、コンパクトカメラ一台で旅ができるので、羨ましく思う時もある。


体調は万全に

 ひとり旅はなんといっても体が資本。体調には特に万全を尽くし、特に、歯は完ぺきに治した方が良い。
 私は何の自覚症状もないまま歯科医へ行き「どうしましたか。」と聞かれたので、近々旅に出ることを伝え診察してもらった。そして悪い所があればすべて治してもらうようにお願いした。レントゲンまで撮り、5本治療したが奥の親知らずは手を付けなかった。
 私は近眼なのでソフト・コンタクトレンズを常用していたが、長時間型ソフト・コンタクトレンズと調光レンズ入り眼鏡を新調した。朝、キャンプ場で目覚めた時、世の中がはっきり見えるのはうれしい。近眼でなくなったようだ。
 北米で入手しやすいボシュロム社製にし型番を書いておいてもらったため、途中で破ってしまったとき非常に助かった。
 非常用の薬も持参した。薬屋の友人からカゼ薬・胃腸薬・傷薬を中心に売る程、せん別にもらったが、幸いにも使う機会がなかった。
 全米ツアー中、病気にならなかったかと聞かれるが、ツアー中は大丈夫だった。だれに頼まれた訳でも勧められた訳でもないのだから、いつでも好きなだけ眠ることができる。さらに気が張っているのだから心配はいらない。生活が落ち着き気が抜けたときが要注意だ。
 英和・和英辞典は手紙を書く際の字引として重宝したが、現場の英会話には何の役にも立たなかった。
 海外旅行者保険は、お守り代わりに加入した。モデルプランを基本に自分なりにアレンジし安く抑えた。月掛けの共済も死亡時は共済金が出るというので継続しておいた。
12ヶ月で約13万円の出費は高いか安いかは判断しかねるが、世界各国の保険会社のビルはどこも立派で高いのは確かだ。
 保険で少しは親孝行しているのだと、親不孝な自分に対して言い訳にもなる。


 先立つものは金。目標と意志があれば意外と早く貯まるものだ。
 最後に旅行費用の持ち出し方法だが、いくつか考えられる。トラベラーズ・チェック(T/C)が安全性が高く現実的だ。20ドル・50ドルを中心にそろえると良いだろう。いくつかの会社が発行しているのがVISAのT/Cが地方での知名度が高い。購入時に一ヶ所にサインをし、使用時にもう一ヶ所サインすると、現金と全く同様に扱われる。サインはパスポートのものと同じに書いておくのが無難。
 在日日本人としては現金を持ち歩きたくなるが、100ドル以上は持たないのが賢明。1日の総予算30ドルだった私は、100ドル以上の現金を持ち歩いたことは稀だった。
 旅慣れない人は、セント硬貨がたまりがちになるので、スーパー等でどんどん減らしてほしい。1ドル・5ドルの小額紙幣はトラブルに巻き込まれた際、ばらまいて逃げるのに多めに持っていると命が助かるかもしれない。
 キャッシュレス社会アメリカではクレジットカードが必需品だと聞かされていたが、貧乏旅行では不必要だと言える。レンタカーなどを借りる人は必要だ。また、クレジット・カードはどこの銀行でも現金やT/Cを買うことができるので、日本の取引銀行から引き出すことができる。ただし、手数料がやや高いことは言うまでもない。
 カードの種類としては、マスター・カードとVISAがあればOK。アメリカではアメリカン・エクスプレス・カードの通用する店が少ないので持つのは損。アメリカン・エクスプレス・カードと名乗っているのが不思議だ。
 100ドルの現金以外はT/Cで持ち出し、お守りとしてクレジット・カードがあれば万全。さらに心配な人はペイ・オン・アプリケーションという制度があるので、銀行の外国為替部でチェックすると良い。
 いろいろ書いてきたが、旅行準備は余裕を持って進め、他人をあてにせず、自分で行動しなければならない。準備の段階から旅行はすでに始まっている。



 
 





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1-2 初めての海外旅行
撮影・著作 マイク・ヨコハマ
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2001.7.29 UP DATE